(その4) 自己紹介
【1980年代 スイッチング式電源の家庭普及対応により、技術拡大成長期へ】
1980年代に入ると、テレビやVTR、PC・情報機器などのいわゆる黒物家電と言われる情報家電がスイッチング電源を採用して小型・軽量・高効率化が進み、また白物家電のIH調理器や電子レンジ・IH炊飯器などの調理家電や、ルームエアコン等が各種インバータ回路を導入し高効率・省エネ化が進むなどして、スイッチング式電源を搭載する機器が大幅に普及した。
これらに搭載されるB to Bと称され機器毎に専用設計されるインダクタ部品も、伴って拡大販売へと活動範囲が広がった。私もこの先は応用技術の拡大と成長期へ入り、自動車ガラスアンテナ用フィルタ、電源高調波歪電流対策用インダクタや、電子レンジマグネトロン駆動用インバータトランスの開発など、搭載機器の知識を含め継続して技術経験を積み上げることになる。
【1990年代 組み立て設計技術限界による挫折と、能力再開発】
このようにしてインダクタ技術者として約20年間に亘り「部材組み立て系の設計技術者」を経験してきた。しかし19世紀初頭からの長い歴史ある既に確立された電磁気理論の上に、カスタム設計と最新材料や加工法による改良の積み重ねを繰り返す設計技術では、革新的インダクタ製品を生むには至らず、空しい出願特許内容も手伝い、徐々にじわじわと締付けられるように自己成長への壁と挫折感を感じるようになり、能力の限界を感じていた。
考えあぐねた末に、従来技術の延長から脱皮を図るには、技術のより上流である磁性材料素材と向き合い深耕することが技術の可能性を切り開くと考えて「材料プロセス技術者」へ、今の自己否定と技術能力再開発、現在でいうリスキリングと転職への画策と行動に臨んだ。
大手家電メーカーという環境であったことも幸いして、磁性材料プロセスはインダクタ事業の将来を支える技術として経営判断を得ると共に、関連する開発技術研究所や、設備・工場生産技術の関連事業所への組織的アプローチ活動を進めることで、交渉説得には時間と精神力を要したものの関連する委託研究テーマ支援や社内留学などの協力が得られることになり、結果的には周囲技術者仲間を巻き込んで、組織としての技術能力再開発と転職を果たすことが出来た。
【材料プロセス系インダクタ商品開発への道】
この組織としての技術能力の再開発と社内転職に成功したことこそが、念願であったより上流の磁性材料研究の推進と、その成果を用いたコアへの材料プロセスを、皆の開発ベクトルを集中させることで、初の内製化によるコアをインダクタ製品へ応用し実用化を図ることへと、一気に進めることができ、この先に示す事業化プロジェクト成功へと導けたことに繋がった。
この社内転職で身に着けた技術経験と労苦を共にした周囲仲間の力量と努力も相交わり、今もPCや車載の各種ECU周辺CPU/GPU等の高速電源回路で活躍する、新たなSMDパワーインダクタ製品を生み出すことができた。