2023.08.30

【第1回】電磁鋼板を用いたSHTチョークコイルのコアにギャップがある理由

ここでは問い合わせの多い、ギャップ付電磁鋼板コアを用いたSHTチョークコイル(TSM、DTS等:HP/OUR PRODUCT/製品一覧/チョークコイルを参照)と、ギャップの無い一般トロイダル状ダストコアを用いたチョークコイルの違いについて、<質問>と<回答>形式で複数回に分けて回答事例を示します。

 

<質問1>
・ギャップを付けるとなぜ磁気飽和が遅くなるのでしょうか。
・また、なぜ急激に飽和するような特性になるのでしょうか。

<回答1>
ギャップ付きコアの磁気飽和が遅くなるのも急激な飽和も、使用するコア材料の磁性材金属組成と、コア形状やギャップを含む図1:設計磁気回路で決定されます。

磁性材料の基本特性を、図2:BHカーブを用いて、図3:電磁鋼板コアを用いたチョークコイルのコアに、なぜギャップが設けてあるのかを電磁鋼板の代表的なBHカーブのグラフを用いて解説を示します。

・図2:BHカーブ(ヒステリシス曲線)の説明

 

横軸Hが磁化力です。(巻数を一定とすれば電流値)
縦軸が磁束密度です。(電磁鋼板は1.6T-1.8T程度でほぼ磁気飽和:L値が無くなる)
カーブの傾きがコアのギャップを含む総合透磁率です。(傾きがL値に比例)

・磁気設計の概方法
ここで電磁鋼板を用いたコアに、ギャップを設ければ傾きを変えられます。

ギャップ大:傾きが浅くなり、L値が下がるが大電流でも飽和磁束密度に達し難い。
ギャップ小:傾きが急になり、L値が上がり小電流で飽和磁束密度に達しL値が無くなる。

もしギャップが無ければ微小電流で飽和磁束密度に達し磁気飽和してL値が無くなる。
このようにギャップ寸法にて、横軸:電流値、縦軸L値でよく示される図4:直流重畳特性を設計しています。


従いチョークコイルの定格電流値は電流ピーク値までも含めて図2:BHカーブにおいて直線域に設定することが一般的です。
DC電流の場合は図2:BHカーブ中、1象限A-B間を行ったり来たりし、AC電流の場合は1象限と3象限の-側へも対象移動します。

 

 

<質問2>
・コアにギャップを設ければ傾きを変えられます。について、なぜギャップを大きくとれば傾きが浅くなりL値が下がるが、大電流でも飽和磁束密度に達し難いという特性になるのでしょうか。

<回答2>
図2:BHカーブにおいて、傾きが透磁率(磁気の通しやすさ)を示します。このコアで、もし巻数が同一なら透磁率とL値は比例するので傾きが浅いと磁気が通り難いことになります。
なぜなら、電磁鋼板部分の透磁率μ(ミュー)は例えば5000-7000*1(空気の5000-7000倍通りやすい)あり、一方ギャップ部分は空気で透磁率は1*1です。トロイダル状コアを1周する長さ(磁路長)の電磁鋼板部分の長さとギャップ寸法の割合でコアの実効透磁率(総合の透磁率)が決まります。その簡易計算式は省略します。
ギャップ寸法を変えることでギャップ付電磁鋼板コアの実効透磁率は後述するダストコア相当の80-120*1程度に低く調整でき、ギャップのない場合の5000-7000*1に比べて桁違いに下げることが出来ます。
結果、ギャップ寸法が大きいほど透磁率が低下するので、L値が比例して低下します。
ここで傾きが浅いと磁場Hはコイル巻数×電流で決まるので、大電流を通電して磁化力を大きく上げないと飽和磁束密度に達し難くなることが分かります。

*1 分かりやすくするために単位は、図5:国際MKS系を用いずCGS電磁系で説明しています。