2023.08.31

【第2回 (その1) 】電磁鋼板を用いたSHTチョークコイルのコアにギャップがある理由

ここでは問い合わせの多い、ギャップ付電磁鋼板コアを用いたSHTチョークコイル(TSM、DTS等:HP/OUR PRODUCT/製品一覧/チョークコイルを参照)と、ギャップの無い一般トロイダル状ダストコアを用いたチョークコイルの違いについて、<質問>と<回答>形式で複数回に分けて回答事例を示します。

前回の記事はこちら

 

<質問3>
・ギャップなしコアで透磁率が100-200程度のものを作成した場合、ギャップ付電磁鋼板コアの実効透磁率が100-200程度のものとは特性は同じなのでしょうか。

<回答3>
・透磁率100-200*1のコア
ギャップ無しコアで透磁率が100-200*1程度のものを作成した場合、とは、たぶんにいわゆる図6:ダストコア(圧粉磁心)を想定されていると思います。なぜなら、ダストコアの透磁率は、種々材質違いはあるが一般に60-120*1程度ですから。


ギャップ付電磁鋼板コアとダストコアとの特性は同じではなく、それぞれの特徴を活かした使用方法が望まれます。以下にその構造や製造方法などから特徴を説明していきます。

・金属磁性材の透磁率
磁性材料として使える磁石につく性質(強磁性)金属材料の透磁率は1000*1以上あり、ダストコアに限らず100-200*1の透磁率のコアを製作するには、必ず何か他の非磁性物質を配合するかギャップを設けるなどして、低下させる必要があります。

・ダストコア形成法と透磁率
ダストコアはコアを金属磁性粉とその周囲を絶縁する樹脂または酸化鉄などで覆って非磁性体部を設けた後に圧縮成形して形成します。(詳細は後述します。)
金属粉自身は透磁率が1000*1以上ありますが、配合した非磁性材料がギャップ機能となってコアとしての実効透磁率が60-120*1程度にしてあります。

・なぜ透磁率を下げるのか
コアサイズが同じなら、透磁率は高い方が同じL値を確保するのにコイルの巻数が少なくて済み、直流抵抗値も小さくできるのになぜ透磁率を下げるのでしょうか。
それは、一般に磁化力による磁気飽和を抑制するためにギャップを設けるので、望んではいないものの結果的に透磁率が下がってしまうのですが、現実のダストコアにおいてはL値が周波数特性に優れ、高周波動作(例:図7:IGBTなら20kHz程度)向きであることから、コアの損失を下げてコア発熱を抑制したり、L-周波数特性をより向上してノイズ減衰特性を良化させ、図8:雑音端子電圧と称されるノイズを抑制したりすることを狙って、金属組成・工法・ギャップ構成等を設計することからも実効透磁率は下がってしまいます。

 

適度に下がることについては、高周波動作の使用ではL値は少なく設計される傾向にあり、また図2:BHカーブの角度が浅くなるので磁気飽和もし難くなり、用途にも寄りますがあまり問題視はされません。

・電磁鋼板+ギャップコアの周波数特性と磁気構造
電磁鋼板+ギャップでのコアの周波数特性は、電磁鋼板の厚さと鋼板内に造った図9:結晶粒の形状・サイズや含有される、けい素の量・添加剤や熱処理を含む特異な製造プロセスによる図10:磁気異方性と、図11:磁歪定数などが磁気構造設計され、構成されています。

 

 

実際に表面のセラミックス系材料の絶縁被膜を切削にて剥がして覗き込むと、肉眼にて石垣状にぎっしりとした結晶粒の形成姿が見えます。これらにより周波数特性と損失を確保しており、ダストコアに比べ磁性材の密度が高いことから電磁鋼板の飽和磁束密度は大きく上回り、より大電流の磁化力使用に向きます。

*1 分かりやすくするために単位は、図5:国際MKS系を用いずCGS電磁系で説明しています。