(その2) 自己紹介
【1970年代 職場の置かれた時代環境】
当時の配属先の「トランス事業部」では商用電源周波数で使用する「電源トランス」の製造販売業が中心であったが、時代と共に周辺技術の環境は進化しつつあった。
1970年代初頭には1960年代に米国NASAのアポロ計画で開発された電源装置で、小型・軽量で搭載が容易、且つ電池寿命に寄与する高効率で安定化制御された「スイッチング式電源」の実用化が通産省(現、経産省)指導の産官学で進められていた。
各社では高周波スイッチング技術に関わる電源回路の研究や専用パワー半導体・トランス・コイル類の開発がほぼ同時進行する競争最中下にあり、従来の「電源トランス」を用いて商用電源を昇降圧し、レギュレータ素子を用いて構成する大きく重たい「シリーズドロッパ式安定化電源」から「スイッチング式電源」への変換が急がれていた。
【当時における職場の技術開発目標と、上司】
私の職場においても産学で「スイッチング式電源」への変換を取り組み中で、具体的には開発中の直流安定化電源装置の容量は、商用電源交流入力で5V・25A出力のAC-DCコンバータであり、求められるインダクタ技術は、電源内蔵搭載にサイズ・重量・特性が整合する高周波用トランス・コイル類の開発・実用化であった。
脱線するが、上司の技術部長はポケットマネーで新入社員歓迎イベントを催すのが恒例らしく、確か高級ホテル最上階にて仲間をまとめてのディナー演奏付食事会が催され、その場の記憶で大いに怪しいが、部長の技術経歴としては旧海軍技術研究所で戦艦に搭載する航空機用スーパーヘテロダイン方式の無線機?やマイクロ波レーダー??機材開発を経験され、戦後に元職場の技術本部に復職された、との戦後色が伺える専門用語のみが脳裏に微かに残っている。
【私の黎明期における技術事始め】
私の技術黎明期における具体業務は、当時各社共に開発途上にあったスイッチング式電源に用いる高周波用コイル、取り分け「ノイズフィルタ」類の開発・実用化であり、回路開発設計と動作評価を行う社内研究所と、関連する国立大学から研究技術を供与すべく派遣されたメンバーに交じって、上司・先輩と共に高周波用インダクタ部品の実験開発・設計実用化に勤しんだことが思い出され、今にして思うとこの上なく大変恵まれた技術環境であった。