【第3回】電磁鋼板を用いたSHTチョークコイルのコアにギャップがある理由
ここでは問い合わせの多い、ギャップ付電磁鋼板コアを用いたSHTチョークコイル(TSM、DTS等:HP/OUR PRODUCT/製品一覧/チョークコイルを参照)と、ギャップの無い一般トロイダル状ダストコアを用いたチョークコイルの違いについて、<質問>と<回答>形式で複数回に分けて回答事例を示します。
<質問4>
・電磁鋼板チョークとダストコアの直流重畳特性では、電磁鋼板チョークが伸びるのは1ヶ所集中ギャップだからでしょうか。
<回答>
・その通りです。
1ヶ所ギャップにしてギャップ寸法を大きく採ることで、図17「反磁界」現象の効果を強くできるので、これによりBHカーブを傾けて磁化力(電流×巻数)による磁気飽和を抑制して直流重畳特性を伸ばし、やがて1つのギャップによる反磁界を磁化力が上回ると一気に飽和に向かうフラットな特性となります。質問3で述べた材料、密度の因子は除きます。
この時に透磁率はBHカーブの傾きですから、初期値より低下します。磁気飽和が生じるとコアが磁性体では無くなり、磁化力がさらに増加しても空芯のL値のみが残留することになります。
<質問5>
直流重畳特性についてですが、0AのL値が一緒とした場合において電磁鋼板の1ヶ所ギャップの大電流時の直流重畳特性と比べて、ダストコアの分散ギャップ特性が低下するのはなぜでしょうか。
<回答>
・ダストコアでのL値調整と実際
ダストコアは磁性粉を高圧で圧縮して製作します。磁性粉(平均直径10µm-100µm)間に設けたギャップ(50nmー0.5µm程度の絶縁樹脂や酸化被膜等)に「反磁界」が生じますが微細なギャップがトロイダル状コア全周に分散した総合ギャップ状態を以て、電磁鋼板の1ヶ所ギャップ値相当の0A時初期L値を合わせることになります。実際は粉体の金属組成や粒径・粒度分布、絶縁バインダーや高圧プレス成形、熱処理等々が関連するので、ダストコア磁気特性を製造プロセスで調整することは難しく、近似サイズ・特性のコアを用いて巻数で調整することになります。この点ではギャップ寸法でL値が調整できる電磁鋼板の方がより実用的です。
・ダストコアの分散ギャップ直流重畳特性が低下する理由
コア内に散りばめられた1つ1つのギャップは小さいので、磁化力(電流×巻数)を加えると、小さいギャップから「反磁界」域を超えて部分飽和を開始し、徐々に「反磁界」域の大きい、大サイズギャップに及んでいき、ついには全体が飽和していきます。
これにて図18:コア材比較 直流重畳特性は、初期L値からすぐに右下がり傾きのスイングカーブを描きます。
利点として、例えば図18:コア材比較 直流重畳特性にて定格電流15Aとした場合、磁気飽和域となる異常時の雷サージやスパイク電流など瞬間の50A-100A時は、ダストコアの粉体を構成する材質や密度が支配し分散ギャップ構成の効果も加わって完全飽和に至り難く、1つのギャップ付電磁鋼板の定格電流域を超えて急激に磁気飽和した後の空芯状態に比べて、よりL値を残存するといった利点も持つものもあります。さらに100Aを超えると全く同じL値になるといったイメージです。
ダストコアは2種材質を示していますが、センダスト*2材はFe-Al-Si系で低損失化を優先し、Hi-FLUX*2材はFe-Ni系の高価な希少金属合金組成を使用し直流重畳特性を優先しています。
ダストコアが上回る磁気飽和領域におけるL値計算は困難で、精密な磁気シミュレーションもしくは実験にて、コイル形態毎に確認しないと残存L値は分かりません。
*2 一般化した商品名です。